「玄徳、軍師を識る」の巻 ⑥   解説(右クリックして保存)

久々の更新になります。前回の続きです。



夜襲をかけるため、玄徳軍が曹操本陣へとやってきます。これが曹操の恐るべき罠とは知らずに・・・。



曹操軍の衛兵たちも疲れのためか、うつらうつらしています。曹操さんは今夜の玄徳軍の夜襲情報を彼らには伏せていたのではないかと思われます。「敵を騙すにはまず味方から」とは言いますが、衛兵たちにとっては実際とんでもない話です。



「狙いは曹操の首ひとつ!」 玄徳さん、全軍に突撃を命じます。



松明を掲げ、雄叫びをあげながら、玄徳軍が曹操陣営に一気に雪崩こみます。ちなみにさきほどの衛兵さんは・・・



声を上げる間も無く、弓で射殺されました。玄徳軍が静かに攻めてくれれば、寝たまま死ねたのにねw

さて、さしたる抵抗も受けず、あっさり制圧した玄徳軍でしたが・・・。



「何か様子がおかしい・・・」 玄徳さんと張飛さんは言うまでも無く、兵士全員が一瞬で凍り付きます。その刹那・・・。



周りから火矢が浴びせかけられます。



Oh no! We fell in a trap! Retreat!
やべぇ、罠にはまった!退却ーっ!

と玄徳さんが絶叫するも時すでに遅し。



玄徳軍は完全に袋のネズミ。曹操軍の大軍に包囲され、情け容赦なく蹂躙されていきます。



そこへ曹仁さん、颯爽と登場。「玄徳、貴様の夜襲など御見通しよ。曹操様はお前とは頭の出来が違うのだ!」・・・と実際には言ってませんが、頭の中ではそう思っていたにちがいありません。

 

「ここは我々が引き受けました。玄徳様は先にお逃げください!」と趙雲、張飛が奮戦しますが、曹操軍の完全なワンサイドゲーム。以前にも触れましたが、このドラマの戦闘シーンは描写が生々しく、切られた腕が飛んだり、血しぶきが飛び散ったりと、結構エグイものがあります。「斜めに切った竹を地面に立てて配置し、そこを騎兵が通ったため、馬が足の裏をやられて転倒。放り出された騎兵が竹で串刺しになる」といった残酷なシーンも描かれています。





その頃、曹操さんは許褚と共に少し離れた場所にある丘の上から高みの見物をしていました。



My Lord, due to your ingenious plan, Liu Bei cannot escape now.

「閣下の天才的な策が見事にはまった!」と許褚も興奮を隠せません。曹操さん、ここにもはや用は無いとして、徐州の占領に向かいます。

・・・・・・・・・・・



夜が明け、僅かな手勢を引き連れ、必死の逃走を続ける玄徳さん。張飛、趙雲の奮戦の甲斐あり、どうにか脱出には成功しましたが、曹操軍は追跡の手を緩めません。



盾となって主君を守るかのように敵兵の矢のえじきとなっていく玄徳軍の兵達。



その甲斐もあって、何とか1人生き延びた玄徳さんですが・・・。

 

髪は乱れ、服は汚れ、ボロくずのようになってしまいました。おまけに自分を背に一晩中駆け続けた愛馬は泡を吹いて死んでしまいます。今回のあまりに惨めな敗戦は流石に堪えたようです。



Oh, ancestors. Liu Bei is so useless.

玄徳さん、己の無力さを先祖達に詫びつつ、崖から身を投げようとします。その時・・・。

Gentleman up there! Aren't you Liu Bei?
そこの御方!劉備殿ではござらぬか?



現れたのは許攸と彼に率いられた袁紹軍でした。ハッと我に返る玄徳さん。許攸は続けます。

You are a pillar of jade supporting the heavens and the bridge over the seas. You cannot abandon the responsibility to uphold the Han Dynasty. How can you contemplate death so easily?

「死んではいけない。あなたが漢王朝を支える責務を放棄してどういたします?」と玄徳さんを止めます。

・・・・・・・・・・・



一晩中逃走を続けた玄徳さん。ようやく一息つけます。許攸から差し出された酒(水ではない模様)で喉の渇きを潤します。玄徳さんの最初のセリフは当然次になります。

玄徳
Xu Yu, didn't Yuan Shao refuse to send troops? And didn't he give you twenty strokes as well? Then, what are you doing here?

許攸
Believe it or not, right after they finished beating me, my lord's son regained his consciousness all of a sudden. You have no idea how happy that made my lord.

「袁紹様は直ぐにテントから掛け出てきて私に平謝りをし、賠償金も払ってくれた」と述べます。ちなみに許攸は相当強欲な人物であったらしく、このことが彼の後の破滅に繋がります。



許攸が嬉しそうに語るので、玄徳さん、ヤケクソ気味に爆笑します。許攸は更に続けます。

To be honest with you, my lord is just that kind of guy. As soon as his son got better, he was again a wise ruler. He accepted my proposal and agreed to send troops to Xuchang.

袁紹軍が曹操の本拠地である許昌を攻略し、徐州の玄徳軍と挟み撃ちにする例の計画の実行に袁紹が同意したと伝えます。そして自分は徐州の状況を調査に来たのだと。これを聞き、玄徳さんは絶叫します。



The will of Heaven. The will of Heaven! Heaven's will is to support Cao Cao not Liu Bei! Don't bother attacking Xuchang. Xuzhou has already fallen into Cao Cao's hands. He has already pulled back his army to defend Xuchang.

「天意はこの劉備ではなく曹操を選んだ!」 玄徳さんが叫ぶのも無理もありません。あと1日でも籠城していれば、この場で惨めに立ち尽くしていたのは曹操だったのかもしれないのです。徐州が一晩で陥落したと聞き、唖然とする許攸。「全軍失ったのですか?!」と尋ねる許攸に劉備さん、「剣さえ失くした!」と折れた剣を地面に叩きつけます。しかしながら、大声を出したことでみるみる闘志が蘇ってきた玄徳さん。再び絶叫します。



As long as there is breath in me, I swear I will fight Cao Cao!
息の続く限り、私は曹操と戦い続ける!

ほんの十数分前に絶望して崖から身を投げようとしていた人物とは思えません。酒の勢いもあったのでしょうか?とは言うものの、徐州を奪われ、兵も失い、関羽、張飛、趙雲とも離れ離れ。すると許攸さん、「当面の間、我々袁紹軍に加わり、再起の機会を待ってはどうです?」と誘いをかけます。玄徳さんにとって、この提案はまさに願ったり・・・という単純な話にはなりません。短命に終わりましたが、徐州にようやく「自分の家」を建てた玄徳さん。「また誰かの家で世話にならなきゃならんのか?」と躊躇します。そんな玄徳さんの心を察した許攸さん。説得を試みます。



Calm down and think about it rationally. Among so many warlords competing for hegemony now, who really has the power to destroy Cao Cao and restore the glory of the Han, except for my lord?

現実問題として選択の余地はありません。袁紹軍に加わることに同意します。袁紹軍にとっても玄徳さんを迎え入れることには計り知れないメリットがあります。玄徳さんは単なる敗戦の将ではありません。れっきとした漢の末裔。彼を傍に置くことは、「献帝を庇護」している曹操と敵対する同義的後ろ盾を袁紹に与えます。「自分達は反乱軍ではなく、解放軍」というわけです。

そんな玄徳さんですから、まさにVIP(Very Important Person)扱いです。袁紹軍の陣に向かっていると、1人の兵士が伝令にやってきます。「我らが主君自ら、玄徳様をお出迎えいたします」と。



これを聞いて玄徳さん、仰天し、恐縮します。例えるなら、国王自ら城外に出てきて「他国」の敗残兵を出迎えるわけですから、とんでもない厚遇です。それに加え、「あの袁紹にそのような度量があったとは!」というのが正直な気持ちでしょう。許攸さん、すかさず「うちの大将は頭が働くときは驚くほど聡明なのです!」(つまり普段は馬鹿だと言いたい)と玄徳さんに伝えます。



優しい笑顔で出迎える袁紹さん。「貴公こそ真の義人だ」と玄徳さんを称えます。

Yuan Shao
I've always wanted to cooperate with you to achieve great things.

Liu Bei
I have but one wish. And that is to help you destroy the villain Cao Cao and uphold the honor of the Han.

Yuan Shao
This is a wish shared by both of us. Allow me to welcome you with a banquet. After that, we will discuss how to annihilate Cao Cao.

 

「共に曹操を倒そう!」と力強く語るスーパーモード中の袁紹さん。威厳溢れるその姿に「本当にあの袁紹か?」といった感じの玄徳さんの戸惑いの表情が笑えます。なお、この直後、袁紹さんが自ら玄徳さんの手を引っ張って案内する場面が続きます。この行為はドラマ中でも何度か登場しており、当時の中国において、主人の客に対する最大級の礼儀であることがうかがえます。


この後の展開について少し解説していきます。玄徳さんは客人として袁紹軍に保護されることになりました。この時点で張飛と趙雲は行方不明の状態です。徐州とは別の要所を守っていた関羽さんは徐州陥落の報を受け、慌てて玄徳さんの救出に向かいますが、時すでに遅し。曹操軍に捕まってしまいます。以前から関羽を気に入っていた曹操さん。何とか自分の部下にしようと試みますが、彼の玄徳さんへの忠義は揺るぎなく、これを拒否。そこで「玄徳様の無事及び所在が確認され次第、即刻去る」という契約条件で、「客将」として曹操軍に加わることに同意します。


出迎える曹操(左)とひざまずく関羽(右)

一方、袁紹さんは優柔不断で愚鈍な「通常モード」に戻ってしまいますが、ようやく曹操軍との決戦に重い腰を上げます。これが「官渡の戦い」の前哨戦となります。そして玄徳さんと関羽さんはお互いの存在を知らないまま、図らずも敵同士となってしまいます。



そして事も有ろうに関羽さん、袁紹軍の第一の猛将である顔良(画像上)を瞬殺してしまいます。この事件により、玄徳さんは関羽さんが曹操軍にいることを初めて知ります。ドラマでは曹操さんは既に袁紹軍に玄徳がいることを把握しており、顔良を関羽に討たせることで、怒った袁紹が玄徳を処刑するよう仕向ける展開となっています。果たして曹操さんの目論見通り、激怒した袁紹さんは玄徳さんの首を刎ねようとしますが、「弟は私がこちらにいることを知らないのです。密書を送り、呼び寄せることができれば百人力ですよ!」と言いくるめられます。そして密書を受け取った関羽は曹操軍を去り、玄徳の元に向かうことになります。これが有名な「関羽の千里行」のエピソードに繋がるわけですが、これに関してはまた別の機会に触れたいと思います。

さて、関羽が途中で再会した張飛を引き連れて自軍に向かっているとの報が入ります。「関羽だけでなく、張飛も来てくれるのか!」と袁紹さんは上機嫌になります。そして玄徳さんを呼び寄せます。



袁紹さん、不機嫌を装い玄徳さんに伝えます。

I've just heard that Guan Yu has already left Cao Cao. When he arrives here, I will cut off his head and display it to the public to avenge Yan Liang and ease my thirst for revenge!

「関羽がこちらに到着したら即刻首を刎ね、晒しものにしてくれる!」と息巻きます。それに対し、玄徳さん。「あなたは鹿を失った代わりに虎を得るのだ」と応じます。

Yan Liang is like a deer. And Guan Yu is like a tiger. So, you've lost a deer but gained a tiger. Is there any need for you to have such rancor?

関羽に歯が立たなかったとはいえ、袁紹軍のために多大な貢献をしたであろう英雄を袁紹さん本人の目の前で雑魚呼ばわりするのもどうかと思うのですがw それはともかく袁紹さん、今のはただの冗談だと笑います。そして2人が汝南(じょなん)まで来ているが、そこから動こうとしていないことを伝えます。そして「顔良を討ったことで、処罰されることを心配しているのだろう。汝南は目と鼻の先だから、迎えに行って来てくれないか?」と玄徳さんに頼みます。

Runan is less than two hundred miles from here. It takes only four days to make a round trip. I want to send you personally to Runan to reassure Guan Yu that he won't be punished. I want to make good use of both Guan Yu and Zhang Fei.

玄徳さん、袁紹さんの方からこれを提案されることを待っていました。実は玄徳さん、既に袁紹さんに見切りをつけていました。出迎えてくれた時こそ「少し」見直しましたが、暫く一緒にいるうちに彼の君主としての底の浅さを改めて認識したのでした。実際、玄徳さん、糜芳さん(無事生還!玄徳と共に袁紹軍に参加)に次のように打ち明けていました。



Liu Bei
We're now staying under another's roof, but it cannot be forever.

Mi Feng
Has Yuan Shao been hinting that we are outstaying our welcome?

Liu Bei
Not really. However, I have spent much time with Yuan Shao. I don't feel that he is a lord who will accomplish much. He rules over the largest land, possesses more soldiers and commanders than anyones else. And yet he lacks determination and resolve. He will neither advance nor retreat.

袁紹が挙兵してから半年余り。しかしながら、彼は何も行動を起こそうとしません。かと言って、「今までお世話になりました。この辺でおいとまします」と出て行くわけにもいきません。そもそも袁紹さんがそれを許さないでしょう。玄徳さんは客人でありながら、捕虜でもあるのです。故にこの絶好の機会を逃すわけにはいきません。

玄徳さん、うやうやしく頭を下げると、出発の準備のため、即座に立ち去ります。無論、そのまま二度と戻る気はありません。この時点で玄徳さんが最も恐れていたのは許攸さんでしょう。彼の入れ知恵で袁紹さんが心変わりする可能性があるからです。そして案の定・・・。



「ああ、うちの馬鹿大将がまたやっちまったか!」という表情の許攸さん。玄徳さんが退出すると、袁紹さんに直ぐに伝えます。

My lord, once Liu Bei departs I fear, he will never return again.

「玄徳は二度と戻ってはきませんよ!」と諌める彼に対し、袁紹さん、「玄徳は信義の男。お前のような小者の尺度で玄徳の度量を図るな!」と怒る始末。呆れ果てた許攸さん、それ以上の進言をやめてしまいます。



さて、僅かな手勢を連れて袁紹軍の陣地から「脱出」を試みる玄徳さんですが・・・。

 

門で許攸さんがドヤ顔で待ち受けていました。「やはりこの男は欺けないか・・・」と諦めの表情。ここで2人は最後の言葉を交わします。「もう戻る気はないんでしょ?関羽、張飛と合流出来たら我が軍に留まる理由は無くなりますからねえ。」と尋ねる許攸に対し、玄徳は「袁紹は凡庸な君主です。このままここに留まっていても大事は成せません。行かせてください」と正直に語ります。これに対し許攸さん、「今回の件でうちの大将はバカ殿だと私も改めて確信した」と伝えます。

しかしながら、許攸さん、ズバリ核心をついてきます。「今のボロボロで惨めで無力な貴方に何ができると言うのです?まだ曹操と戦おうというのですか?」と。これに対し玄徳さん、「息の続く限り戦いを止めない!」とあらためて断固たる決意を語ります。



己の信念を曲げず、決してブレない玄徳さんに尊敬の眼差しを向ける許攸さん。「この人が自分の主君ならなあ・・・」と感じたに違いありません。そして「自分の助言を受け入れるなら、このまま見逃す」と語ります。

I shall give you some advice as a gift. If you accept it, I'll let you leave today.

「ご鞭撻のほどを」と頭を下げる玄徳さんに「荊州の劉表を頼れ」と伝えます。実は玄徳さんもずっと同じ事を考えていました。劉表は当時の有力豪族の1人であり、曹操や袁紹とも渡り合えるだけの勢力を築いていました。「劉」の字が示すように漢の末裔でもあり、劉備玄徳の遠縁にもあたります。その玄徳さんが促せば、劉表は曹操打倒の兵を挙げるかもしれません。なお、創作物で劉表は穏やかで野心の無い人物として描かれ易いようです。

さて、別れの時がきました。「どうぞお通りください」と道を開ける許攸に対し、誰もがするであろう提案を玄徳さんはおこないます。

Since you clearly know Yuan Shao is no wise lord, why don't you accompany me?

玄徳さんに誘われ、内心飛び上がるほど嬉しかったと思われます。しかしながら、半ば諦めの表情で許攸は答えます。

I have already served him for more than a decade. I really don't have the heart to abandon him. Each must fulfill his own destiny.



許攸さんの言う通り、お互いそれぞれ果たすべき役割があるのです。短い付き合いでしたが互いの力量を認め合った2人。最後に礼を交わし、別れます。


この後の展開ですが、玄徳は無事関羽と張飛、そして趙雲とも再会を果たし、そのまま劉表を訪ねることになります。そこで跡目争いに巻き込まれ、またまた散々な目に遭うのですが、それが玄徳軍初の軍師となる徐庶との邂逅(かいこう)に繋がります。許攸はそのまま袁紹に仕えますが、遂には主を見限って曹操の元に走り、「官渡の戦い」で曹操軍に大勝利をもたらします。しかしながらそのことで増長し、最後は処刑されてしまいます。


今回はこれまで。

参照 : Episode22 Episode23 Episode24 Episode26