「玄徳、軍師を識る」の巻 ④   解説(右クリックして保存)

今回も玄徳さんはスルーになりますw 「魏」「呉」と来れば、次は当然玄徳さんの「蜀」になるところですが、その前に曹操さんの初期のライバルの袁紹の陣営に触れて行きたいと思います。



こちらが袁紹さん。初登場時に比べ、だいぶ老け込んでいます。直接取り上げるのは今回が初めてですが、過去の回で何度か言及してきたと思います。名門「袁」一族の末裔であり、反董卓連合のリーダーでもありました。ドラマでは優柔不断で愚鈍な君主(但し、ごく稀に天才的判断をすることもある)として描かれています。董卓の死後、最大勢力となりますが、中原の覇を曹操さんと争い、「官渡の戦い」で大敗。その後は没落していきます。圧倒的な兵力(演義では曹操軍7万に対し、袁紹軍は70万。但し、この数字は非現実的とされる。)を誇りながらも判断を誤り、勝利する機会を何度も逸したことから、「愚かさ故に勝てる戦いに敗れ、天下を取り損ねた男」として歴史に名を残したと思います。判断を誤った理由は曹操陣営に勝るとも劣らない軍師たちを抱えながら、彼らの助言を活用できなかったことにあります。

ドラマでは単なる脇役でしかないはずの袁紹陣営にも普通にスポットライトが当てられています。例えば曹操軍との一連の抗争中は曹操陣営と袁紹陣営で時間がほぼ半々に割かれており、これは大変驚くべき事だと思います。また、そのお陰で袁紹陣営のドラマも見ごたえのあるものとなっております。

ドラマでの袁紹陣営の主たる軍師は以下の2名です。



田豊(でんほう)。私はドラマを観るまで彼の事は知らなかったのですが、袁紹に最後まで忠節を尽くし、結局は処刑されてしまう悲劇の英雄としてファンの間では有名のようです。大変優れた軍師として歴史家の評価も高く、袁紹が彼の献策を採用していれば歴史は全く別のものになっていただろうと考える人も多いようです。ドラマでは下の許攸と折り合いが極めて悪く、袁紹にも疎まれて投獄され、獄中で自害する最期を迎えます。



許攸(きょゆう)。史実では「官渡の戦い」の最中に袁紹に愛想を尽かしてこれを裏切り、決定的な情報を曹操に与えて勝利をもたらした人物として有名です。曹操とは幼なじみだったとも言われています。この件を除けば目立った活躍はしなかったようですが、ドラマでは何故か非常に大きな役割を与えられています。実際、史実では田豊を始めとする他の軍師にまつわる出来事の一部がドラマでは彼が関わったことにされるなど見せ場は多く、袁紹陣営では袁紹本人ではなく、彼が主人公的存在になっています。気取り屋で不敵な性格の人物として描かれており、主君の袁紹の聞こえるところで彼を「大ばか者」と呼んで二十叩きの刑に合う(執行最中も袁紹を罵倒し続けた)などのエピソードもあります。但し、その言動は彼の能力に裏付けられたものであり、大変有能な軍師としても描かれています。

ここで袁紹陣営の会議の一場面を取り上げたいと思います。過去の回で詳しく取り上げましたが、袁紹さんの従弟である袁術が玉璽を手に入れ、勝手に皇帝を名乗ります。そして各地の有力者たちに漢皇室を見捨て、自分に帰順するよう求めてきます。



当然、袁紹さんにも忠誠を求める書状が送られてきます。袁紹さん、激怒して書状を床に叩きつけます。



Yuan Shu rebelled against the Han dynasty and established his own in Shouchun. He's gone so far as to request me to declare allegiance to him.

将軍達はこれを聞き、袁紹さんにも皇帝の座に就くよう求めます。当然です。領地の規模、軍隊の質、そして品格、どれをとっても袁紹さんの方が遥かに上です。少なくとも将軍たちはそう信じています。袁術如きが皇帝を名乗るなど片腹痛い!

If anyone should be emperor, it should be our lord! I beg you, my lord, to assume the throne as well and declare a new dynasty.



これを聞いてまんざらでもない笑みを浮かべる袁紹さん。いや、内心嬉しくてしょうがないのかもしれません。しかしここは冷静に軍師たちの意見を求めます。まずは許攸さん。

In my opinion, in these times of chaos, a regional lord has three choices. The first is to support the Han. The second is to usurp the Han. The third is, well, to support the Han as an excuse to usurp the Han. Yuan Shu is impatient and foolishly took the easy route of openly usurping the Han. He is only courting disaster. My lord, at this time, you should seek to strengthen yourself, watch and wait for an opportunity you can seize to your advantage.

次に別の軍師(郭図:史実では袁紹の重要参謀の1人。ドラマではチョイ役。)が進言します。「閣下に皇帝になって頂きたい気持ちは皆同じ。ただ機はまだ熟してない」と意見を述べます。

Yuan Shu, out of impatience, hurried to pick the peaches before they were ripe.

「袁術は焦って皇帝になり、国中の諸侯を敵にまわした。彼が滅びるのは時間の問題」と予言します。無論、この予言はあたります。そして最後に田豊が進み出て、意見を述べます。彼に言わせれば、袁術が皇帝を名乗ったことはむしろ「喜ばしいこと」なのです。



「そりゃどういう意味だ?」と驚く袁紹さん。



一方、許攸さんの表情。どう見ても警戒感を露わにしています。ライバルの田豊の非凡さにあらためて気付かされたという感じでしょうか?あるいは自分が述べようとしていた意見を先に言われ、不快感を覚えたのかもしれません。いずれにせよ、同じ主君に仕える身でありながら、この2人は全く反りが合わず、この後も事ある毎に対立し、それが後の田豊の悲劇や官渡の戦いの敗北へと繋がっていきます。

さて、田豊は続けます。

Yuan Shu, by declaring himself emperor so suddenly, will no doube incur the wrath of the world. In this case, all the spearheads and anger will be directed at him. My lord should take advantage of this. Conquer Hebei. Once you've established your hegemony, we can reconsider the issue about becoming emperor. Anyway, leave Yuan Shu to gloat over his nominal status. Meanwhile, you strive for true power. In the end, those with a name but no substance will fail, but you, my lord, who hold true power, the name will follow.

「袁術が名ばかりの皇帝の座に満足している間、閣下は真の権力を目指すべきです。そうすれば名の方が後から付いて来ます」と助言します。これには許攸も賛同し、袁紹もこの意見を採用します。なお、この後の展開としては第一話と第六話で触れた通りです。

さて、肝心な玄徳さんが一向に登場しませんが、ドラマでは許攸と玄徳さんは意外なところで接点を得ます。史実では2人が会話どころか、会ったことがあるのかさえ不明であり、ドラマのこの展開は非常に面白いと思いました。

背景を少し説明します。曹操さんと玄徳さんは共に力を合わせ、呂布を討ちますが、その後は漢皇室に対する考えの違いから激しく対立し、袂を分かちます。袁術討伐のため、一時的に「共闘」(第六話参照)しますが、その直後、献帝による曹操暗殺計画が露見。激怒した曹操さんは皇后(当時、献帝の子を身籠っていた)を献帝の目の前で時間をかけて絞殺します。漢皇室に忠誠を誓う玄徳さんは曹操さんの行為に激怒。一方、玄徳さんも名を連ねた血判書の存在が曹操さんの知るところとなり、2人の対立は完全に決定的なものになります。そして徐州に駐屯する玄徳軍を討伐するため、曹操さん自ら大軍を率いて出陣します。



怒りの曹操さん。「まずは玄徳。奴を滅ぼしたら、次は袁紹だ!」と兵達に檄を飛ばします。



一方の玄徳さん。白装束を身に纏い、お香を焚きながら皇后の霊に復讐を誓います。



・・・などと呑気な事をしている間に曹操軍に囲まれてしまいます。兵力が圧倒的に違います。まともにぶつかり合っても勝ち目は無く、かと言って籠城戦に訴えても陥落は時間の問題です。そこで玄徳さん、一計を案じます。実は袁紹陣営とはあまり離れていません。使者を送り、曹操軍を背後から攻撃してもらおうという算段です。より厳密には曹操さんが留守の間に本拠地である「許昌」(献帝がここに囚われているため、ここを落とす意味は非常に大きい)を攻めてもらう作戦です。実際、玄徳軍が生き残るにはそれしかありません。玄徳さん、ここで使者にある助言を行います。「袁紹に会う前に許攸に相談しろ」と。玄徳さん、優柔不断な袁紹の性格を良く知っています。そこで腹心の許攸に事情を説明し、彼に袁紹の説得を頼もうという訳です。

ところで場面は曹操陣営に変わります。この挟撃の懸念に関して、曹操軍の軍師、荀彧(左)と程昱(右)が話し合いをしています。会話の中に2人の考え方の違い現れ興味深いです。ちなみにこの2人の関係は極めて良好です。中途半端になりますが、これを取り上げて今回は終わりにしたいと思います。

 

まずは程昱が今回の遠征について懸念を述べます。今度の戦いに主力のほとんどを引き連れてきたため、許昌がほぼガラ空き状態です。袁紹が切れ者なら、おとりの軍を展開させて我々を釘付けにし、その間に本隊を送って許昌を攻略すると述べます。これに対し荀彧さん、素晴らしい策だが奴には無理だと袁紹さんを酷評します。

Yuan Shao is an indecisive and suspicious ruler. He is afraid to advance but too greedy to withdraw. He doesn't fight with a fifty percent chance of victory, or even with seventy. It is not until victory is certain that he goes all out to battle.

袁紹の性格からして彼は動かない。仮に袁紹が重い腰を上げるとして、その前に玄徳の徐州を落とせば良いのです。これに対し程昱さん、徐州の守りは堅く、落とすのは容易ではないと懸念を伝えます。また、袁紹は愚鈍でも、彼の軍師たちは有能です。許攸や田豊が許昌攻めを進言し、それが聞き入れられたら我々は窮地に陥ると述べます。ところでこの種の議論は本来は出征前になされるべきですね。ちょっとしたツッコミ所ですw これに対し荀彧さん、危険を冒す価値はあると伝えます。

Without risk , there is no victory. If our lord doesn't attack Xuzhou now, when he does so in the future, Liu Bei, who will be more powerful, will attack Xuchang. The risk in the future is greater than the risk we are taking now.

ここで傍らで2人の議論に耳を傾けていた曹操さんが会話に入ってきます。



曹操さん、「お前たちの会話を聞いていると多くを学べる」と両名を称えます。そして反董卓連合軍に参加していた時の思い出話を始めます。当時、好機が何度もありながら総大将の袁紹が優柔不断なため、董卓を討ち取る機会を逃してしまいました。大軍を有しているが、あいつは凡庸な君主だと袁紹を評価します。一方、玄徳のことを手勢は少ないが手強い相手だと警戒します。袁紹と雌雄を決する前に玄徳を片付けておきたいのです。

さて、徐州の要塞の外で対決前に玄徳さんと曹操さんの両名が顔を合わせます。ドラマでは対峙する敵同士の軍勢の間でそれぞれの大将が歩み寄り、会話を交わす場面が多く見られます。



玄徳さん。護衛として趙雲を引き連れています。



一方の曹操さん。護衛に許褚を従えています。史実はともかく、演義をベースにした創作物ではこれが両者の最初の直接対決とされることが多い感じです。

果たして玄徳さんの運命は?今回はこれまで。

参照 : Episode15 Episode22