「袁術死す!」の巻   解説(右クリックして保存)

今回は第1話でも登場した袁術さんの最期に関わるエピソードになります。



以前にも簡単に触れましたが、名門「袁」一族の末裔であり、黄巾の乱で頭角を現した有力な地方豪族の1人でした。ドラマでは一貫として頼りない愚鈍な君主ですが、子供っぽく、気さくそうで憎めないキャラクターとして描かれています。実際、ドラマを観てない方でも上の画像を見るだけで性格を察してしまいそうですw

袁術さんの破滅の始まりは勝手に皇帝を名乗ってしまったことでした。これにより日本で言うところの「朝敵」となってしまい、他の豪族に攻撃される口実を自ら作ってしまいました。自身が建てた国「仲」は悪政で相当荒れたらしく、民心がどんどん離れていったとも言われています。袁術さんを攻めたのは曹操劉備連合軍であり、袁術軍は敗走を余儀なくされます。ここまでは第1話で触れた通りです。その後、袁術さんの存在は暫く忘れられていたのですが、その間、曹操劉備連合軍は呂布を討ち、曹操さんの計らいで玄徳さんが献帝に拝謁できたことは前回触れた通りになります。

今回の物語はこの辺から始まります。前回で触れたように、献帝は曹操さんの排除を目論見、血判状を作成して味方を集めます。その内の1人が玄徳(劉備)さんです。曹操さんは血判状の存在には気付いていませんが、宮中内で自分に対する何らかの陰謀が画策されていることは感じています。加えて玄徳さんを危険人物と見なしているため、彼を殺すことさえ考えています。玄徳さんも曹操さんを恐れており、卑屈を装うことで何とか曹操さんの警戒心を解こうと必死です。食事中に雷にビビった振りをしたのもその一環でした。

そんな中、献帝陛下の御前での会議中に重大な知らせが届きます。ちなみに下の画像をご覧ください。曹操さんが献帝陛下と同じ高さで座しているのが分かりますね。



兵士の1人がやってきます。この兵士さん、最初は献帝陛下ではなく曹操さんに向かって報告しようとし、曹操さんに目でたしなめられます。これもまた象徴的な場面です。



報告によると、袁術さんが袁紹さんに仲の皇位を譲る代わりに保護を求めているとのことでした。勝手に皇帝を名乗っていて、その位を譲ると言われても自分なら困るんですけどw 袁紹さんも袁術さんと同じく袁一族の末裔であり、この時点では最大勢力を誇っています。



曹操さんは献帝を保護下に置いてはいますが、軍事力や経済力では袁紹さんには及びません。また、袁紹軍はこの直前にやはり有力な豪族であった「公孫瓉」(こうそうさん)を滅ぼし、曹操さんの腹心の荀彧さんの言葉を借りるなら、まさに「飛ぶ鳥を落とす勢い」です。

荀彧
He's now riding on the momentum of victory. I fear the decisive battle between you and Yuan Shao is imminent.

袁術さんと袁紹さんは従兄弟同士(異母兄弟の説も)だったのですが、相撲界の若貴兄弟のように仲が非常に悪かったのです。しかしながら、袁術さんも最後は血の繋がりにすがろうとしたのでしょうね。曹操さんも両者が手を組むことになれば厄介なことになると懸念を覚えます。



Hmmm, that's no good. Once Yuan Shao and Yuan Shu merge their forces, their family will become even more powerful.

これを聞いて玄徳さんが立ち上がり、袁術軍討伐を志願します。袁紹さんの下へ袁術軍が到達する前に叩こうという算段です。



For Yuan Shu to join Yuan Shao, he must pass through Xuzhou. As I am familiar with the lay of the land in that area, I'm willing to intercept Yuan Shu, capture him alive and deliver him before the throne.

そう言えばサッカーなどで敵のパスをカットすることを「インターセプト」と言いますね。これに対し、献帝陛下は曹操さんに意見を求めます。

曹操
The idea isn't bad. However, Liu Bei's troops are few, and I fear he might not be Yuan Shu's match.
献帝
Then, perhaps you can loan him some troops.

苦境にあるとはいえ、袁術さんはまだそれなりに兵力を保持しています。「非力な玄徳軍じゃ無理じゃね?」と言う曹操さんに対し、「じゃあ、あんたが兵を貸してやったら?」と献帝さん。献帝さん、いつになくテンションが高く、饒舌になっています。これには理由が2つあります。1つは叔父さんである玄徳に手柄を立てさせたいという気持ち、そしてもう1つがこれを口実に玄徳を曹操の下から離れさせ、将来曹操に対抗できるような独立勢力を築かせさせたいという気持ちです。後者は特に重要であり、玄徳さんも朝敵の袁術さんを討ち取りたいのは無論本心ですが、それ以上に曹操さんから逃げるチャンスだとも考えています。



自分のペースで勝手に話を進めようとする献帝さんを曹操さんがギロリと睨み付けます。



献帝さん、ショボーンとなってしまいます。このドラマ、曹操さんが献帝陛下をないがしろにする場面がこれでもかこれでもかと登場します。さすがに見ていて気の毒なんです。ただ、ドラマにおいて献帝さんは一貫として曹操さんの悪辣さの引き立て役として描かれていますが、実際の献帝陛下はかなり威厳のあった方みたいです。「朕に忠誠を誓うか、さもなくばさっさと退位させろ」と凄まれて曹操さんがビビったという逸話が残されているようです。それはともかく、曹操さん、5万の兵を玄徳に貸し与えることに同意します。

You must bring Yuan Shu back without fail.



玄徳さん、間髪入れず、脱兎の如く「許昌」を脱出します。ちなみに張飛さんが「1日150マイル(240キロ)走るぞ。遅れる者は処刑だ!」と滅茶苦茶な事を叫んでいます。無論、急ぐのには理由があります。曹操さんが「虎を野に放つ」という自分の過ちに気付き、袁術討伐命令を撤回する恐れがあるからです。「今更そんなこと言われても後戻りできないっす」と弁明できるよう、早く許昌から離れなくてはいけません。



許昌を離れるところを献帝さんの腹心中の腹心である董承(とうしょう)が見送りにきます。董承さんは皇后、つまり献帝さんの奥さんの父親(史実では側室の父親)でもあります。また、例の血判状絡みの曹操暗殺計画の中心人物の1人でもあります。宮廷を離れられない献帝陛下の伝言を伝えに来ます。一刻を争う状況ですが、ちゃんと馬から降りて挨拶する玄徳さん。



玄徳
What brings you here, sir?
董承
His Majesty was unable to leave the palace and sent me to see you off. His Majesty said that the reason why he pushed you to attack Yuan Shu was that he wished you to establish your own power outside the capital. From now on, the fate and destiny of the empire shall rest on your shoulders.

「陛下はこれから毎日香を焚いて貴殿の盛運を祈るともおっしゃられた」 これを聞き、感激した玄徳さん、陛下のご期待に背くようなことはしないと曹操打倒の決意を新たにします。

その晩、曹操さんの屋敷を腹心の1人の程昱(ていいく)が慌てた様子で訪問します。



前回登場した荀彧と並ぶ曹操さんの腹心の1人です。門番の兵士に緊急の用事だから行って起こしてこいと命令しますが、ここで例の「寝ながら殺せる」の話が出てきますw



兵士
His Excellency is still sleeping. I dare not go in.
程昱
Ah, you are afraid of him slaying people in his sleep, right?
兵士
That's right. When His Excellency is asleep, no one is to approach him.

程昱さんは無論「タネ」を知っていますので、だったら自分で起こすと寝室に入って行きます。荀彧さんの時のようなトラブルは無かったようですw 「何故みすみす玄徳を逃がすような真似をなさったのか?」と程昱さん、曹操さんを責めます。

Liu Bei is a hero among men, concealing great ambition in his heart. I urged you long ago to kill him. At least you shouldn't have allowed him to leave. Now we've let the dragon return to his lair, and the tiger back to the hills.

曹操さん、「だから言ったのに・・・」という程昱さんの苦言というか愚痴に大してぐうの音も出ません。直ちに追っ手を向けて玄徳を引き返させるよう命令を出します。



曹操さんの表情。「玄徳に一杯喰わされた」という感じでしょうか。あるいは臆病者を装ってまで自分を出し抜こうとした玄徳さんの隠された志の大きさに底知れぬ脅威を感じたのかもしれません。実は陳宮さんも生前、玄徳さんについて同じような感想を口にしたことがあります。呂布と共に恩を仇で返し、玄徳から徐州を騙し取った時(=実は行き場を失くした呂布と陳宮を玄徳が徐州に保護してあげていた)、玄徳さんが恨み言を1つも言わず、「頑張って働きますので徐州に留まらせてください」と呂布に頭を下げたことがありました。この態度にあの呂布でさえ、「何か悪い事しちゃったなあ」と罪悪感を覚えるのですが、陳宮さんは「何ちゅう男だ!」とむしろ警戒感を覚えます。

さて、曹操さんの命令を受けて玄徳軍を追いかけてきたのは下の二人。



許褚(きょちょ)さんと



張遼(ちょうりょう)さんです。彼は元々は呂布軍の武将だったのですが、呂布が曹操さんに敗れた際、降伏して配下に加わりました。その後は曹操軍の名将の1人としてかなりの軍功を挙げたようです。関羽とも敵将同士ながら個人的な親交を結んでいたことでも知られています。

許褚さんと張遼さん、500の手勢を従え、一晩掛けて玄徳軍に追い付きますが・・・。



玄徳軍、これを察してなんと戦闘態勢で待ち構えていました。5百対5万では幾らなんでも勝負になりません。それでも許褚さんは一戦交える覚悟ですが、「まあ、俺が話をしてこようと」張遼さんに静止されます。



玄徳さん、「いやー、敵軍だと思って陣形を整えたら、あなた達でしたか」とすっとぼけます。「直ちに帰還するようにと皇帝陛下がご命令です」と張遼さん。無論、命令しているのは曹操さんです。これに対し、玄徳さん、有名な格言でこれを拒否します。

A general on the field is not subject to even his lord's orders.
将、軍に在りては君命をも受けざるところあり。

「トップが何と言おうと現場に決定権がある」といった意味です。張遼さん、苦々しく思いながらも玄徳さんの背後の5万の兵に睨みをきかされているため何もできません。仕方なく許昌へ帰還し、曹操さんに事の次第を報告します。ちなみに許褚さん、戦わず逃げ戻ったことに対して最後まで不満タラタラです。

さて、いよいよクライマックス。玄徳軍は袁術軍に猛攻を加え、散々に叩きのめします。この時点で袁術軍の士気は相当低かったものと思われます。



袁術さんとその僅かな手勢をとある古寺に追い詰めます。張飛さんは「俺様がひっ捕まえてきてやる!」といきり立ちます。実は玄徳側と袁術さんとの間にはちょっとした因縁がありました。玄徳さんが関羽さんと張飛さんを連れて反董卓連合軍に参加した際、ただの田舎者だと他の豪族達に辱められたことがありました。言うまでも無くその中には袁術さんもいたのです。それに加え、袁術さんは連合軍の物資の管理を担当していたのですが、手柄をあげても約束を反故にして報奨を渡さなかったりと玄徳側に対して不実な態度を取り続けたため、特に張飛さんの恨みを買っていたのです。

しかしながら玄徳さん、武士の情けをかけることにします。生け捕りにして許昌に連れて行けば、縛られたまま晒し者にされた上で処刑されるであろうことは明白です。そこで手紙をしたため、趙雲に届けさせることにします。



このコーナーでは何気に初登場の趙雲(字は子龍)さんです。三国志を多少でもかじったことのある人なら誰でも知っている豪傑中の豪傑です。関羽さんや張飛さんと同じく、三国志ファンの間でのこの方のイメージも大体決まっている感じがします。また、戦闘能力の高さもさることながら、プライドが高過ぎる関羽さんや武骨で粗暴な張飛さんと違い、性格的にも非の打ちどころがない人物として描かれる傾向があると思います。実際、性格が災いして命を落とすことになる関羽張飛の両名よりも長生きしてますね。



さて、寺の中には袁術さんと(左)が残された僅かな取り巻きがいるのみ。絶望的状況です。ちなみに例のおじいちゃん軍師の姿はありません。たぶん先の戦いで命を落としたのでしょう。



袁術さん、「この世で最も愛おしいもの」といった感じで「玉璽」(ぎょくじ)をまじまじと見つめています。ドラマで登場する玉璽は大雑把に言えばヒスイを彫って作った印章であり、中国皇帝の間で代々受け継がれてきた、いわば皇帝の証になります。それ故に「これを手にしたものが皇帝になるのは天命」という伝説めいた話が生まれることになります。その玉璽が巡り巡って袁術さんの手に渡ってしまったことが彼の運命を狂わせたわけですね。無論、玉璽自体は実在していましたが、これにまつわるエピソードが演義の創作であることは間違いないでしょう。「美女に運命を翻弄された男達」などという話は良く聞きますが、これと同じで玉璽もそういった舞台の「小道具」として効果的に利用されていると思います。そしてここに至ってなおも玉璽に固執する袁術さん。非常に憐れみを覚えさせる場面です。



部屋に入って来た趙雲さんから受け取った手紙を読みます。手配書の存在を見る限り、当時既に「紙」は普及していたのでしょうか?ただ、ここでの手紙は画像を見ての通り、細い竹か何かの板を紐で繋げたものになっています。ドラマではこの手の「書物」が多く登場します。

I'm under orders to capture you alive and bring you to Xuchang. However, considering your position, I can't bring myself to do it. I implore you to end this on your own terms so that you won't tarnish your reputation.



玄徳さんの配慮に袁術さん、この世での最後の言葉を趙雲さんに投げかけます。

Liu Bei is still a decent man, it seems.
劉備は今も変わらず立派な男のようだなぁ。

それはあれほど見下していた男に対する賛辞でした。動乱の時代にも志を曲げず、己を失わない玄徳さん。袁術さんが本当になりたかったものこそ劉備玄徳だったのかもしれません。



そして全てを受けれ剣を抜き・・・



自害して果てます。享年(推定)45歳、西暦199年6月の事でした。なお、ドラマでは武将らしい見事な最期を遂げますが、史実では「蜂蜜入りの水を飲ませろ!」と叫び、それが適わないと知ると、2リットル近い血を吐いて絶命したらしいです。



玄徳さんが神妙な顔で入ってきます。最期まで付き従っていた袁術さんの部下たちは悲しみのあまり、突っ伏したまま顔を上げることさえできないようです。そして玄徳さんが床に見付けたのは・・・



あの玉璽でした。玄徳さん、ここで誰もが思っていたであろう心境を吐露します。

Since ancient times, how many heroes and men of ambition have met their end on account of this piece of stone?

ちなみにこの後ですが、玄徳さんは曹操さんから借りていた5万の兵をまんまと「持ち逃げ」します。曹操さん、一応の逃亡予防策として2人のお目付け役を派遣していたのですが、この2人、袁術討伐祝勝会の際に張飛にぐでんぐでんに酔わされた上で縛られ、玉璽と一緒に曹操さんの元に送り返されます。無論、曹操さんの怒りに触れて2人は処刑されます。


今回はこれまで。

参照 : Episode 20 Episode 21