「曹操は寝ながら人を殺せる」の巻   解説(右クリックして保存)

今回は前回までお届けした「たとえ天に背こうとも・・・」の番外的な話になります。陳宮さんに去られた曹操さんですが、とにかく無事故郷に戻り、父親の曹嵩(そうすう)と再会します。



ところで曹操さん、目の前の父親と義兄弟の契りを交わした伯奢おじさんを惨殺したわけですが、もちろんその件は黙っていると思われます。前にも触れましたが、世の中知らない方が良いこともあるのです。いずれ伯奢おじさん達の訃報は曹嵩の耳に入ると思われますが、「強盗に襲われて皆殺しにされた」といった話で収まると想像できます。

ちなみに因果応報と言いますか、曹操さん、後で父親を惨殺されてしまいます。簡単に状況を解説すると、第一話で徐州という地域を巡って曹操さんが玄徳呂布連合と争っている話に触れたと思いますが、その争いがここに起因します。当時、徐州は陶謙という有力な豪族が治めていました。ところが曹嵩が徐州内で殺害されるという事件が起こり、曹操さんは激怒。徐州に攻め入り大虐殺を行います。史実における曹嵩殺害の経緯は不明ですが、ドラマでは陶謙の手下が金品を奪うために殺害したことになっています。また、ドラマでは曹操さんが父親の復讐を徐州攻略の口実に利用するような描写が見られます。陶謙は曹操軍に対抗するために他の勢力に援軍を求め、玄徳さんが駆けつけます。陶謙は間もなく病死し、玄徳さんが徐州を引き継ぐことになります。その後、玄徳さんは呂布の裏切りにあって徐州を奪われることは第一話で少し触れた通りです。



こちらが曹嵩さん。若い頃はかなりのイケメンだったと思われます。息子の董卓暗殺未遂事件の話は当然耳に入っていたはずですので、息子の無事を願って毎日気が気でなかったでしょう。「悪を滅ぼし、世を変えたい!」 息子曹操の決意に耳を傾けます。



Father, before us is a time of chaos unheard of in the last few hundred years. This era of chaos is precisely when men of ambition will arise. As the saying goes, heroes are made by the times. I want to raise an army and make my name in the world.

曹操さんの発言は誰もがどこかで聞いたことがあるような陳腐なものなんですが、それでも曹操さんが口にすると不思議な説得力を感じます。私が口にしても中二扱いされそうです。曹嵩さん、董卓は強大なので立ち向かうのは容易ではないと諭しますが、曹操さん、董卓の力の源はあくまでも軍事力であり、董卓自身は大きな志も先見の明もない愚鈍なリーダーだと看破します。息子の洞察力に感心した曹嵩さん、曹操さんに伝えます。

I've already sold all the family property. Take the money to recruit soldiers and prepare arms and banners.

これに対し、曹操さん、次のように応じます。

That's not enough by a long shot. Those who accomplish great things must have money. However, money cannot do everything. Having the right people is even more important. Having the support of one hero is better than having 100,000 gold.

この発言は曹操孟徳という人間の本質を表していると思います。曹操さんが優秀な人材を「またですか?」と呆れられるほど次々と登用していった話は伝説的に有名ですね。野球で言えば巨人やヤンキース、サッカーで言えばレアルマドリードを少し連想しますw ちなみに英語で「どれほど得ても十分ではない」という意味で Can't get enough という言い回しがありますよ。


話題を変えます。前回、「曹操は寝ながら人を殺せる」という話に触れました。曹操さんの伝説と言えば、有名な「梅の木」の話があると思います。兵士達の喉の渇きを癒すため、「向こうに梅の林が見えるぞ」と言って唾液を出させ、難局を乗り切らせたと言われています。一方、「寝ながら殺せる」の話は私も聞いた事がありません。ネットの検索にも引っかかりませんので、演義にも出典の無い、ドラマの創作と思われます。

場面がまた別の時間に移ります。曹操さんと玄徳さんが手を組み、呂布軍を滅ぼした直後(呂布さんと陳宮さんは共に斬首)になります。曹操さんは将来の禍根となり得るとして玄徳さんを相当警戒しています。実際、玄徳さんの勢力は微々たるもので、その気なら一気に軍事力で滅ぼすことができるのですが、大義も口実も無い以上、それはできません。(但し、下で登場する参謀の荀彧などは「即シャー」を勧めたこともある。) 加えて玄徳さんは漢の末裔の1人であることから、その存在自体が侮れない影響力を持ちます。そこで玄徳さんを「手元に置いておく=監禁」するために、「皇帝陛下に会いたいなら会わせてやるぞ」と玄徳さんを自分の都の許昌に誘います。玄徳さんにとって献帝陛下は神の如き存在ですから、曹操の意図を承知で警戒しつつも喜んで上京します。

曹操の仲介で献帝陛下との悲願の拝謁を実現させた玄徳さんですが、これが重大な問題を引き起こします。「お前も漢の末裔?だったら俺のおじさんってことじゃね?」といった具合に玄徳さん、献帝陛下にあっという間に気に入られます。実はこれが非常にまずかった。



献帝さんはドラマを通して登場場面が多いんですが、いつも鬱っぽい雰囲気なので、このような明るい表情をするのは非常に珍しいです。



「おじさん!」と呼ばれ、玄徳さんはすっかり恐縮してしまいます。一方、曹操さんは・・・。



「こりゃ、まずいことになりそうだな・・・。」といった感じの表情。ドラマを通して曹操さんがこのような表情を浮かべるのも珍しいです。玄徳さんと献帝陛下を引き合わせたことを後悔したかもしれません。曹操さん、玄徳さんを完全に危険視するようになります。そして暫くの後、玄徳さんの心の内を知ろうと彼を昼食に誘います。

一方、玄徳さんは昼食の誘いに大喜び・・・ということは全くなく、むしろ死ぬほど恐怖を感じます。簡単に解説すると、献帝陛下は曹操さんの抑圧に耐えられず、彼を「排除」する決意を固めます。つまり曹操さんを「暗殺」するということです。その目的のため、血判状を作成し、漢皇室へ忠義を持ち続けている勇士を募ります。玄徳さんは献帝陛下の悲壮な決意に心打たれ、血判状に捺印(なついん)します。「まさか血判状の件が露見したのか?!」とビビったわけです。それでも招待を断るわけにはいきませんので、まさに「虎の巣穴」に踏み入る覚悟で曹操さんの屋敷を訪れます。そしてその時・・・。



自分と入れ替わりで屋敷の外へ運び出される使用人の血まみれ遺体とすれ違います。



戦慄する玄徳さん。そりゃそうだw



昼食会が始まります。その隠された野心を暴こうとする曹操さんと、ひたすら卑屈を装い必死に曹操の警戒心を解こうとする玄徳さんとの駆け引き。史実にはない演義の創作であることは間違いないでしょう。想像するに、「項羽と劉邦」で有名な「鴻門の会」を意識したエピソードだと思われます。ちなみに玄徳さんは突然鳴った雷にビビった振りをし、「なんだ。稀代の英雄かと思いきや、雷如きに情けない奴」と曹操さんを欺くことに成功します。

それはともかく、昼食会の冒頭で玄徳さん、曹操さんにオズオズと尋ねます。「あのぉ、さっきぃ、使用人の遺体が運び出されているのを目にしたんですけどぉ・・・。」

I found out that you had slain him while asleep. You must be a most extraordinary man who is able to sleep with an open eye.

目を開けたまま眠れるなんてスゲェー!と称える玄徳さんに対し、曹操さん、真相を話します。

Since you are an honest person, I will tell you the truth. It's not that I enjoy killing people while asleep. When you sleep, you sleep. Why bother killing people? However, I've been always worried that someone would assassinate me while I'm sleeping.

「さすがに考え過ぎでは?」と玄徳さん。それに対し、曹操さん、自分の経験を基に次のように語ります。

Back then, it was when Dong Zhuo was sleeping that I attempted to kill him. If I can assassinate someone, then someone can assassinate me.

だから寝首をかかれないよう、予防措置を取る必要があったと語る曹操さん。「一体どんな予防措置をとったのです?」と玄徳さん。曹操さんの語った暗殺対策の秘策とは・・・。

I intentionally made it known that I'm wont to slay people while dreaming. Anyone who approaches me while asleep puts his life in danger.

ところが使用人全員が信じたわけではなかったので、過激な手段を取ることにしたそうです。

So, this afternoon, I pretended to be taking a nap on the couch and started mumbling. My attendant thought I was calling for him, and came up to see what I wanted. I yelled, grabbed my sword and stabbed him. After slaying him, I went back to sleep.



「その後、何食わぬ顔で目をさまし、そこで初めて殺したことに気付いたフリをして悲しんでみせたのさ。ニャハハー!」といつものように悪びれずに笑います。この出来事はうわさ話として広まるから、今後は誰も就寝中の私には近づくまいと満足そうに語る曹操さん。それに対する玄徳さんの微妙な表情。



一刻も早くこいつの下から離れたいと思っていたに違いありません。

ところが「曹操は寝ながら人を殺せる」というのが、あながち嘘ではなかったことがずっと後に判明します。ここまではドラマの第20話の内容なのですが、そこから話がずっと進んで第61話で事件が起きます。この回では曹操さんが夜中に反乱軍の急襲を受け、かなり危険な目に遭います。夜襲の情報を得た二人の側近が曹操さんの寝床に押しかけます。



真ん中が荀彧(じゅんいく)。



曹操さんを数々の献策で初期の頃から支え続けた側近中の側近です。



左は許褚(きょちょ)。勇猛さで知られ、曹操さんの寵愛を受けた武将です。三国志のファンでこの両名を知らない人はいないでしょう。

衛兵に「忘れたんですか?殺されますよ!」と止められますが、側近2人は「タネ」を知ってますので衛兵を押しのけて寝室に入ります。



背中を向けて寝ている曹操さん。「閣下、一大事です。起きてください!」と近付く荀彧ですが・・・。



「ウガァー!」と吠えながら突然上体を起こし、短剣で危うく荀彧さんを本当に殺しそうになりますw




今回はこれまで。

参照 : Episode 3 Episode 19 Episode 20