「たとえ天に背こうとも・・・」の巻 前編   解説(右クリックして保存)


今回の舞台は前回よりも前の話になります。話が少し長くなりますので前編と後編の2部仕立てでいきたいと思いますが、まずは簡単に時代背景を解説いたします。

ドラマの原作となっている「三国志演義」は「黄巾の乱」(西暦184年)と呼ばれる中国全土で発生した農民の反乱から始まります。大雑把な話、腐敗により国が乱れ、民衆の不満が爆発したという、よくある展開な訳ですが、もはや漢にはこの反乱を平定する力も無く、結果、反乱鎮圧に立ち上がった地方の豪族達が台頭し、後の三国時代を生み出す乱世に繋がっていきます。

ちなみに漢は「項羽と劉邦」の物語で有名な「劉邦」によって建てられた国ですが、途中の滅亡と再興(それにより「前漢」「後漢」と区別される)を挟み、なんと紀元前206年から400年近く続いてきた王朝です。三国志の物語に登場する漢は後漢に相当します。

黄巾の乱は平定されるわけですが、混乱はその後も拡大します。当時の漢の宮廷では「十常侍」(じゅうじょうじ)と呼ばれる宦官グループが漢皇帝を後ろ盾に絶大な権力を欲しいままにしていました。そんな中、時の皇帝である「霊帝」(献帝の父親)が崩御します。これを契機に十常侍に対する有力豪族らの不満が武力による反乱という形で爆発し、十常侍らは宮廷から一掃されることになります。

そしてこの混乱に乗じて献帝を「保護」し、その後ろ盾を得て新たな権力者となったのが、かの悪名高い「董卓」でした。



これが幼い頃の献帝陛下。



そしてこれがドラマにおける董卓さん。クシャミをする瞬間を激写しました。この董卓さん、残虐非道な人物として描かれる傾向がありますが、実際大変な悪者だったらしいです。死んだとき(暗殺による)は市民たちが歓喜して踊り狂ったとか、脂肪の付き過ぎで遺体が三日三晩燃え続けたとか、色々なエピソードがあるみたいです。容姿も大体イメージが定まってるのでしょう。NHK人形劇に登場した董卓さんが下です。



かなり似てますね。ちなみに横山光輝さんの漫画を原作にしたアニメだと下になります。



・・・これは一体どういうことでしょう?深く考えないでおきます。

なお、霊帝の死後、皇位を最初に継承したのは献帝の異母兄弟である「少帝」でしたが、董卓によって皇位を追われ、反董卓連合に担ぎ出されることを危惧した董卓によって毒殺されるという悲劇の最後を迎えます。その在位期間、なんと僅か5か月!

そしてこのドラマは黄巾の乱ではなく、暴政を振るう董卓に対し、その他の有力豪族らが反董卓連合軍を結成する少し前の辺りから始まっています。今回の主役は2人。



曹操さん。そして・・・



陳宮さんです。張飛や周瑜といった英雄達に比べると認知度が全然高くないですが、おそらく三国志のファンの間では一目置かれている人物と思われます。史実では当初は曹操の下で働きながら、やがてこれを裏切って呂布に従い、最後まで曹操に抗い続けます。曹操は陳宮を助けたかったのですが、彼はこれを拒否し、敢えて処刑されることを選びました。ドラマでは彼の活躍が登場から処刑まで詳しく描かれており、見ごたえのある物語となっています。

さて、董卓を誰もが恐れ、大臣達は彼の前では常にぶるぶる震えています。董卓がクシャミをするだけで腰を抜かすような有様です。その大臣の1人が「王允」です。三国志演義で絶世の美女として有名な「貂蝉」(しょうせん)の養父でもあります。



この爺さんが王允さん。何年もの間、漢王室に仕えてきた重鎮の1人です。忌々しい董卓を排除して献帝を救いたいと考えていますが何もできず、屈辱の日々を悶々と過ごしています。この日は王允さんのバースデー。友人達を屋敷に招き、ディナーパーティーを開く予定です。



「今晩は王允の屋敷で宴会ですな。」
「貴殿も招待されましたか。」
「どんな食事が出されるか楽しみですなぁ。」

実際はこんな事は言ってませんけどねw ところで宮廷の幹部らが全員招待される中、1人だけハブられた男がいました。



言わずもがな、曹操さんです。曹操さんはうまく取り入って董卓の信頼を得ることに成功し、お気に入りの部下の1人として董卓から破格の待遇を受けていました。そんな曹操さんですから、漢皇室に忠誠を誓う大臣達からは侮蔑の目を向けられており、招待される訳がありません。ところがそんな事ではめげない曹操さん。王允さんの屋敷に勝手に押しかけます。



ちなみに招待されてもいないのに勝手にパーティーに押しかける人を英語では gatecrasher と言います。ちゃんと言葉があるのが面白いですね。

「董卓の腰巾着の曹操が来た!」と会場が騒然となります。招待客の1人は

Cao Cao might as well be Dong Zhuo's adopted son. He must have come here to eavesdrop and bring news to Dong Zhuo. You must send him away!

と主張します。なお、この時点で既にあの呂布が董卓の正式な養子となっています。これに対し、王允さんは・・・

Not necessarily. In my opinion, he doesn't appear to be Dong Zhuo's apple polisher. He has always been ambitious. He may be acting as a trusted aide, yet in his heart he may have other intentions.

曹操の行動を冷静に分析し、「祝いに来てくれた者を追い返すわけにもいくまい」と彼を招き入れます。曹操さん、宴会の席に混ぜてもらえることになりました。ヨカッタネー!

そして皆で乾杯をします。「うまい酒だ!」と笑顔がこぼれます。ところが王允さんの次の発言によって場の空気が一変します。

Today isn't my birthday. On the contrary, this will be my death day. I invited all of you to my humble home, using my birthday as an excuse because I wanted to tell you that our great Han dynasty, which lasted 400 years, is coming to an end.

「漢の威信は完全に地に堕ち、国は分断され、宮廷は董卓に凌辱されている」とボヤキ始めると、「なんと嘆かわしや」と客席からもすすり泣く声が聞こえ始めます。



ちなみに招待客の1人は次のように董卓を評しています。

He is no better than a beast.

この光景を目にし、年寄りの十八番が始まったかと、曹操さんがゲラゲラと嘲笑し始めます。



You are all men here, but you act like women.

今の時代、こういう発言をブログ上でしたら一瞬で炎上しますね。更に「メソメソと泣いてて董卓が死ぬのか?俺ならあいつの首を刎ねて王宮の門に飾るくらい朝飯前だ!」とぶちまけます。この不遜な発言に王允さん激怒!手下に命じて曹操さんを屋敷の外に放りだします。



両腕を抱えられて連行される曹操さん。しかし、王允さんにはある考えがありました。密かに使いを出し、宴会が終わったら二人きりで会いたいので書斎で待っていて欲しいと伝えます。ちなみに曹操さん、待ってる間に喉が渇くのは嫌だと言って、酒瓶2本を所望します。

宴会が終わり、王允さんはあらためて曹操を招きます。

I'm very sorry to keep you waiting. Please accept my humble apology. There were a lot of people at the banquet. It wasn't convenient for me to talk at great length.

そして「董卓を暗殺する計画があるのか?」と尋ねる王允に対し、曹操さんは「無論だ」と即答します。実は彼には1つの名案がありました。董卓にすり寄り歓心を買ったのも全てはそのためでした。猜疑心の人一倍強い董卓ですが、今や完全に曹操を信頼しており、私室に自由に出入りする許可さえ与えていたのです。つまり、武器さえあればいつでもグサっとやれるはずなのですが、1つ問題がありました。皆に殺したいほど憎まれていることを自覚している董卓は暗殺を恐れており、服の下に鎧を着こんでいるのです。そのため並みの武器で切りかかっても、かすり傷一つ付けられません。実際、過去に暗殺を試み、そのせいで失敗した人物がいました。

そこで曹操さん、王允さんにある物を自分に貸すよう頼みます。それが家宝である「七星刀」と呼ばれる名刀でした。七星刀は鉄や石さえも貫くと言われる小刀です。これなら董卓の鎧も貫くことも可能です。

董卓さえ殺せば董卓軍は指導者を失って瓦解し、漢に平和が戻るのも容易いと曹操は言い放ちます。「首尾よく董卓を殺害できたとして、その後どうやって逃げるつもりか?生きては帰れないぞ」と尋ねる王允に対し、曹操は毅然と答えます。「大義を成すのに命を惜しんでどうするのか?仮に王宮の門に晒されるのが董卓ではなく自分の首になったとしても決して後悔しない」と。その意気に感じ入り、王允は快く曹操に七星刀を預けます。



「俺は必ずやる!首を洗って待ってろ、董卓!」 七星刀を手に決意を新たにする曹操さん。口がへの字ですwww 計画通り、セキュリティチェックも通り抜け、内密な話があると嘘を付いて人払いをさせ、董卓と二人きりになる曹操さん。後は七星刀をぶっすり刺すだけですが・・・。








失敗しました・・・。デスヨネー

アドルフ・ヒトラーの暗殺計画でも有名ですが、悪人というのは不思議な悪運によって守られているようです。董卓の場合、曹操が背後で振り上げた七星刀のきらめきが鏡に反射し、それによってバレてしまいます。「この七星刀を献上しに参りました」と咄嗟の嘘を付いてその場をやり過ごし、曹操さんは何とか逃げ出します。暗殺に失敗したばかりか、世に二つと無い名刀も取られてしましました。最悪です。

董卓も直ぐに曹操の本来の意図に気付き激怒します。そして息子の呂布に曹操の捕縛を命じます。



これがドラマの呂布さんです。演じるのはピーター・ホーという台湾で活躍中の俳優さんのようです。う〜ん、どうなんでしょう?身長185センチらしいですが、あの呂布を演じるにはちょっと線が細かったような気がします。というかカッコ良過ぎて、呂布の荒々しく武骨なイメージには合わなかった気がします。放映中、中国では賛否両論だったんじゃないでしょうか。



「追う者」呂布が手下を率いて曹操を追い詰めます。



「追われる者」曹操さん。森の中を必死に逃げ回ります。身体中が泥だらけで、一見するとただの貧しい農夫です。果たして曹操さんの運命はいかに?

ところでドラマでは何故かここで唐突に有名な「桃園の誓い」のシーンが挿入されます。玄徳ら3兄弟の登場もここが初になります。



O Heaven and Earth, and all creation. Today, we - Liu Bei, Guan Yu, and Zhag Fei - swear brotherhood in this peach garden. We will work together as one, sharing joys and sorrows for the rest of our lives. We swear to serve the state and save the people. We ask not the same day of birth, but we merely hope to die on the same day.

曹操さんが大変なことになっているのに空気が読めてない感じもしますね。両者の状況を対比させるための演出でしょうか?なお、玄徳らの義兄弟の契りは史実ですが、桃園の誓いは演義内での創作のようです。それを言ってたら曹操さんの董卓暗殺計画も創作なので、いちいち指摘してたら切りがないんですが・・・。

さて、逃走中の曹操さん。手配書があちこちに出回っています。かなりの賞金が首に懸けられているようです。



こういう格好に変装しましたが・・・。



あえなく捕まってしまいました。



そして連れて来られたのがもう1人の主役、陳宮さんの前。



この時、陳宮さんは日本で言うところの代官的な職に付いていたようです。「お前は何者だ?」と尋ねる陳宮さんに、曹操さんは・・・

Your men must have mistaken me for someone else and arrested me. I'm innocent.

「人違いですだ。オラは沛県から来た、しがない行商だべよ〜」と言ってすっとぼけますが・・・。










お前は曹操だろ!

ズバリつっこまれます。曹操さんは全く覚えていませんでしたが、陳宮さんは曹操さんと過去に接点があったのです。さかのぼること2年前、陳宮さんは要職に就いていた曹操の元に仕事をもらいに行って屈辱的な対応をされたことがあり、そのことを根に持っていたのでした。当時の事を陳宮は語ります。

Two years ago, when I went to look for a position in the capital, I paid you a visit. You really put on airs back then. You didn't even glance at my name-card before you told your men to throw it back at me.

これを聞いて曹操さんも思い出します。「(やべえ、あの時の!?)あの時はすんませんでした!」と謝罪する曹操さん。実はつれない対応をしたのには一応の理由がありました。当時から既に政府内には腐敗が蔓延しており、曹操さんも辟易していたのです。役人も役人の仕事も無能で無価値と考えていたので、「そんな仕事を欲しがるなんて、お前バーカ」という感じだったのでしょう。そして陳宮さんに次のように言い放ちます。

Even if you went to my office today and asked me for a job, I would do the same thing.

これに対し、陳宮さん。

I'm not upset because of these words. I'm upset because you didn't even bother to meet me. You've been always so arrogant and full of yourself, looking upon the world with disdain.

この他にも「お前の首には法外な懸賞金がかけられているが、何故それほどの価値があるかさっぱり分からない」だとか、ここぞとばかりに散々嫌味をぶつけて来るので、曹操さんもウンザリしてきます。「さっさと首を刎ねて逆族董卓に持って行くがいい!」

But I have one request. Make it swift and spare me the pain.

陳宮さん、こんな状況でも英雄然と振る舞う曹操さんに半ば呆れながらも、「処刑日は明日だ!」と部下に命じて彼を投獄します。



牢屋の中の曹操さん。「何でこうなった?」と自問しているのかどうかは分かりませんが、果たして彼の運命はいかに?!今回はこれまで。


参照 : Episode 1 Episode 2