「曹操、決して返せないモノを借りる」の巻   解説(右クリックして保存)


今回取り上げる場面はかの有名な「赤壁の戦い」よりも前の出来事です。当時の中国の統一王朝たる漢の国は末期状態であり、各地の有力豪族らが漢の皇帝に代わる新たな覇者にならんと虎視眈々と機会を狙っているという、まさに群雄割拠の時代でした。

とは言え、皇帝の地位はあくまでも天からの授かり物。どれほど権力がある人物でも勝手に皇帝を名乗ることは許されません。「天意」に背く反逆者扱いされます。ところがフライングをし、勝手に皇帝を名乗る人物が登場します。それが袁術です。



これが袁術さん。名門袁一族出身の豪族。しかしながら、曹操ら当時の他の有力者からの評価はすこぶる低い。ドラマでも常にオドオドし、頼りない君主として描かれてます。皇帝となり打ち立てた国名は「仲」。辞書にも載ってませんw

実際は誰もが袁術さんと同じことをしたがっています。でも、マラソンなどの競技でも良く言われますが、こういう場合、「焦って先に動いたら負け」です。他のランナーの目標にされ、徹底的なマークにあってしまいます。場合によってはうまく逃げ切ることもあるでしょうが、大体は潰されてしまいます。袁術さん、それをやっちゃいました。漢皇室に刃向かう逆族と見なされ、他の豪族達が堂々と袁術を攻撃する口実が出来てしまいした。



こちらが「正統」な漢の皇帝「献帝」。幼い頃から波乱の人生を歩み、漢のラストエンペラーとなった御方。「逆族袁術を討つべし!」との詔(みことのり)を発します。



この詔を直接受けたのが曹操さん。「他の豪族と力を合わせ、袁術を討ちます」と献帝にうやうやしく誓います。この後、各地の有力豪族に手紙を送り、袁術討伐連合軍に参加するよう要請しますが・・・・。



誰も来ませんでしたwww

曹操さん自身、誰も来ることを最初から期待してません。ここで若干状況を説明すると、曹操さんはこの時点で献帝を「保護」の名目で自分の都に半ば監禁しています。そして「自分の口は皇帝の口」と言わんばかりに皇帝の権威を笠に着て好き放題しているわけです。そんな曹操さんも内心では・・・というよりも隠す気さえないんですが、自らが皇帝となり、新王朝を打ち建てる野心を抱いています。

つまり、曹操さん自身が公然たる逆臣であり、

「逆族はお前だろ?」
「誰がお前に加勢するかw」


とツッコまれ、しかとされるのは至極当然なわけです。そこで曹操さんは当初の予定通り、自分の軍だけで袁術討伐に向かうのですが、ここで思わぬ事態が発生します。

劉備玄徳(左)が僅かな手勢を率いて曹操軍の支援に現れたのです。関羽(中)と張飛(右)も一緒です。ところで劉備玄徳さんですが、名前が「劉備」で字名が「玄徳」なわけですが、この方だけ何故か字名の方が通称になってますね。



これには曹操さんも驚き困惑します。実はこの時点で既に双方の対立関係は決定的なものとなっており、曹操さんは「機会があったらあいつを殺しても良いかなぁ」くらいに考えてます。

玄徳さんも「あいつには近づかない方がいいなぁ」と考えているのですが、玄徳さんは献帝と同じく、漢王室の末裔。漢王室のためなら粉骨砕身の覚悟であるため、半ば命懸けで曹操軍の陣営へ身を寄せます。

曹操さんもわざわざ加勢に来てくれた玄徳を始末するわけにもいかないので、「当面は利用するだけ利用しておくかぁ」と討伐軍に受け入れることにします。

さて、曹操軍侵攻の知らせが「仲」皇帝に届けられます。「全軍をもって叩きのめしてやる!」と息巻く・・・と言うよりはむしろテンパっている感じの袁術さんですが、軍師に籠城戦を勧められます。



このおじいちゃんが袁術さんの軍師さん。名前が登場しませんので、おそらく創作された人物でしょう。袁術にかなり頼りにされています。相当の知恵者であるだけでなく、忠義心にも厚い方のようです。実際、袁術さんが皇帝になりたいと言ったとき、必死で止めようとしました。下がその時のやりとりです。結局思い留まらせることができませんでしたが、その時点でやがて訪れるであろう主君の最後を予期し、殉死する覚悟を決めたのかもしれません。

袁術:
I've passed my prime, and my age is showing on my face. My days are numbered. If I don't assume the throne now, I will run out of time to fulfill my desires. Master, say no more.

軍師:
Forgive me, my lord. But I'm stubborn by nature. I would rather speak freely and die than flatter and gain fortunes. YOU MUST NOT become emperor NO MATTER WHAT!

このやり取り中の袁術さん、悲哀がにじみ出ています。「人生の最後に良い夢見させてよ」という感じでしょうか。

さて、袁術さんの軍師の見立ては正しかったようです。曹操軍は防御に徹する袁術軍を攻めあぐねます。しかも曹操側は遠征軍のため、兵糧が尽きそうになり苦境に立たされます。袁術軍の増援部隊も迫ってきており、もはや一刻の猶予も許されません。

そんな中、悲劇のヒーロー登場。



名も無き「兵糧管理係」です。「食糧が3日分しか残っておりません」と曹操に訴えます。それに対し、兵糧補給が届くまで10日かかるから10日間もたせろと無茶振りされます。「無理です。兵達が暴動を起こしかねません。」と訴える管理係。曹操さんは自分が何とか収まらせると伝えますが・・・。



曹操さんのこの表情。「この手しかないな・・・」という感じでしょうか。果たしてどのような奇策で兵士達の不満を収まらせるつもりでしょう?

さて、食事の時間。案の定、兵士達の不満が爆発します。



「肉を食わせろーっ!」



「粥なんかいらねぇー!」という感じでしょうか?鍋をひっくり返してしまいました。ここで再び先ほどの管理係が呼び出されます。Z計画発動のようです。

曹操さん、兵士達を鎮めるために、お前からある物を借りたいと管理係に伝えます。

I wish to borrrow something from you to quiet the men. I hope you won't be too stingy.



I would borrow your head. Unfortunately, it's a thing that I can only borrow, but not return.

「兵糧不足の原因は管理係が横流しをしていたから」という嘘をでっち上げることで兵士達を落ち着かせる算段でしたwww 自分がスケープゴートにされることを悟り、管理係は半狂乱で訴えます。



My lord! I'm innocent!
閣下!私は潔白です!

これに対し、曹操さんは「無実なのは知っている」と笑顔で語りかけます。そして「でもお前に死んでもらわないと反乱が起きるんだな、これが」と続けます。そしてここから文字通りの「殺し」文句が続きます。

曹操:
Rest assured. After you die, your parents will be my parents. I will honor them better than I honor my own. Your sons will be my sons. I will treat them with more care than I do my own. Of course, rather than by staying with you, by staying at my side your sons will have a brighter future.

そしてこの笑顔でwww

Don't you think so?

この後、「この者を引っ立てて即刻首を刎ねーい」と管理係は処刑されてしまいます。この場面、横山光輝さんの漫画「三国志」の中にも登場しているのですが、そこでの曹操さんは沈痛な想いで管理係を処刑しています。それとは全く対照的です。演じている俳優さんも楽しかったでしょうねwww



こちらは曹仁さん。曹操さんの従弟です。史実では大変な猛将であり、曹操の片腕として多くの戦功を挙げた名将ですが、ドラマでは少し間抜けでコミカルな役割が当てられています。この辺は同じく演義を原作にしたNHK人形劇でも同じだったことを思い出します。

曹仁さん、悲劇の犠牲者の首を掲げながら兵士達を前に熱弁を奮います。



「不正を働いていた輩は処刑した。これで兵糧不足は解消される。今日から毎日腹いっぱい食え!但し、3日以内に城を落とせなければ全員処刑だ!」 3日分の食糧しかない事実は何も変わっていないので、ここは重要です。無論、兵士達にこの事実は伏せられています。世の中、知らない方が良いこともたくさんあるんです。



「うおおー!肉だー!」 ヌーの大移動の如く料理に押し寄せる兵士達。あるいは有名デパートの元旦福袋セールの開店直後の様子も連想させます。この後、曹操軍は怒涛の猛攻を仕掛けて城を陥落させ、袁術を敗走させます。



主を失った城内を曹操さんと玄徳さんが仲良く散策します。ここで曹操さん、玄徳さんに「うちの軍に留まる気は無いか?」と誘ってきます。これは曹操さんの好意でもなんでもありません。要は敵にまわすと厄介なので、「側に置いておく方が安心=いざとなれば始末できる」という考えに基づくものです。

ここで少し状況を説明すると、玄徳さんはこの時点で呂布軍と同盟を組み、徐州という地域に駐屯していました。赤兎馬を駆り、三国志でも最強の武将として名高い、あの呂布です。厳密に言うと、最初玄徳さんが徐州を支配していましたが、呂布の裏切りに合い、これを奪われたため、仕方なく降伏し、呂布の家に居候しているという状況です。そんな経緯もあり、玄徳側と呂布側の関係は微妙です。お互いの間に信頼はほぼ皆無であり、共通の敵である曹操軍が強力なので、「敵の敵は友」の理屈に基づき仕方なく手を組んでいる状態です。曹操さんは徐州が喉から手が出るほど欲しいのですが、玄徳と呂布が一緒にいるうちは簡単には手を出せません。

曹操さん、ここで呂布を狼に例え、「狼のすみかに戻るつもりか?」と引き留めようとします。これに対し、玄徳さん、笑顔で面と向かって次のセリフを吐きます。



Allow me to be frank. Though Lu bu is greedy and vicious as a wolf, you are ferocious as a tiger. Staying by a wolf is probably a bit safer than staying by a tiger.



これを傍で聞いていた曹仁さん。「こいつ、何言ってやがる?」と玄徳さんを切り捨てようとしますが、さすがに曹操さんに止められます。


この後の展開としては、玄徳は「狼のすみか」に戻りますが、曹操の「離間の計」の策謀により呂布と仲たがいし、結局は曹操と共に呂布を滅ぼすことになります。また、袁術も追い詰められ、自害して果てることになります。今回はこの辺で。

参照 : Episode 16