リスニング力を上げるには?

ずっと昔に同様のテーマでウェブサイトにコラムを掲載したことがありましたが、今回あらためて触れたいと思います。

@ 教えられないスキル

私の教室では様々な英語を教えています。受験英語であったり英会話であったりと色々です。それらに加え、様々な英語スキルも教えています。それらは読解力であったり会話力だったりです。ところがその中でも「教える」ことができないスキルがあります。それが「リスニング力」になります。例えば読解の場合は「この文章は主語が○○から○○の部分であり、文型はSVOCで、Cに当たる部分がここからここ」のように具体的に指導できますが、リスニングの場合、「ここは耳を20度傾けて、この部分を特に集中して聞けば・・・」のように具体的に指導することができません。従ってリスニングに関しては「英検過去問のCDを買って自分でやってください」のように生徒さんに勧めることが圧倒的に多いです。但し、リスニング力を向上させる方法は分かっているつもりです。それは・・・

語彙力と読解力を上げること

です。しばしばリスニング力は「耳の能力」と錯覚されがちです。故に「英語耳を鍛える」だとか「耳を英語に慣らす」といった少々無責任な発想が宣伝文句で使われます。でも実際のところ、リスニング力とは耳に入ってきた文章を瞬時に頭で理解する「脳の能力」です。そしてこの瞬時に英語を理解する能力は、むしろ「読解力」に近いものです。また、仮に「耳が英語に慣れている」としても、相手が自分の知らない単語や表現を使ってきたら、どんなにゆっくり話してもらっても完全にお手上げです。その意味で語彙力はリスニングにとっても大変重要なわけです。

A 聞き流しでは意味が無い

私がアメリカで暮らしていたとき、ホームステイ先のホストマザーがスペイン語でラジオを聞いていました。聞いていたというよりは、家事をしながら単に聞き流していたと言うべきでしょうか。本人は「いつかスペイン語を勉強する時のために、今のうちにスペイン語に耳を慣らしておくのよ」と話していました。う〜ん、どうなんでしょう?発想は分からないでも無いんですが、話している内容が意味不明なら、雑音をBGMにしているのと変わりありません。少し怖いおばさんだったので、本人の前では口には出しませんでしたが・・・。

俗に言う「聞き流す」というという作業はリスニングとは全く別物です。聞き流すということは、実際は耳を通して頭には何も入ってこないことを意味します。それを考えれば聞き流しがリスニング力の向上につながらないことは明白でしょう。仮に聞き流しが有効だとしても、それは上級者(それも相当の)に限定されます。日本語の場合を考えてください。我々日本人が話を聞き流した場合、「ごめん、聞いてなかった」となる場合もあれば、集中して聞いていなくてもある程度頭に入る場合もあります。聞き流しても内容が頭に自然と入ってくるためには相当の語学力が前提ということになります。「英語に曝(さら)せば耳が進化する」といった受身の姿勢はキッパリ捨てるべきです。

B 勉強方法

耳でなく、脳を鍛えましょう。まずは「集中して聞く」という積極的な姿勢を徹底します。でも集中して聞くというのは結構大変です。日本人の私たちが英語を長時間聞き続けるのはとても気疲れする作業です。だから、一日5分から10分程度でいいと思います。

次に何を聞けばよいかですが、当然ながらご自分のレベルに合わせたものを選びます。初心者の方がいきなり映画のリスニングに挑戦しても、全く効果的ではありません。ここはやはりNHKのラジオ英会話だとか、英語検定のリスニング問題などでゆっくりお湯につかっていきましょう。中級者以上の方でしたら、テレビのニュースを副音声で聞いたり、NHKのインターネットラジオに挑戦してみてもいいと思います。ニュース英語は文法的にもしっかりしており、きれいで正しい英語を聞くことができます。多少スピードが速くても、比較的理解しやすい利点があります。また、テレビのニュースでは映像などが理解の助けにもなりますね。

C 最後に

英語教材で耳にする英語と実際に外国人が話す英語は違うといった話を聞いたことがあるでしょう。これは事実です。英語の教科書に登場する Mike や Nancy とは違い、現実の外国人は容赦をしてくれません。加えて日本人であろうが外国人であろうが、誰もがそれぞれに特徴的な訛りや声質を持っています。あるアメリカ人の発音が聞き取れるのに、別のアメリカ人の発音が全く聞き取れないといったケースに当たり前に遭遇します。TOEICのリスニングで満点を取るような人でも、実際の会話や映画での聞き取りでは四苦八苦するんですよ。(私も!)

既に述べた通りですが、リスニングには語彙力も文法力が重要に関わってきます。別の見方をすれば、勉強を進める中で文法を学び、読解力や語彙も増えていけば、当然ながらリスニング力も向上していくということです。これは大切なポイントです。焦らず少しずつ、時間を掛けて階段をのぼっていきましょう。